私は製造業でエンジニアとして仕事をしてきました。
製造業では、完成した製品だけを見て品質をつくるわけではありません。
もちろん最後に検査はします。しかし、不良品が見つかったときに完成品だけを眺めていても、なぜ不良になったのかは分かりません。
どの工程で問題が起きたのか。工程条件はどうだったのか。どこでばらつきが生まれたのか。
原因を工程まで遡り、必要なら工程そのものを改善する。そうやって、最後に出来上がる製品の品質を高いレベルで安定させていきます。
製造業に長くいると、それほど特別な考え方ではありません。
ところが最近、中小企業診断士の二次試験についていろいろ考えているうちに、ふと思いました。
勉強では、完成品ばかり見ているのではないか。
学習をINPUT、PROCESS、OUTPUTで考えてみる
中小企業診断士の二次試験では、中小企業の診断・助言に関する事例について、記述式の試験が行われます。
これをかなり単純化すると、次のように考えられます。

こうしてみると、答案は突然出来上がるわけではありません。
与えられたINPUTを頭の中で処理し、その結果がOUTPUTとして答案に現れています。
当たり前の話なのですが、この構造で自分の受験勉強を振り返ると、少し見え方が変わりました。
テキストを読めば、知識というINPUTを増やせます。
問題集では、問題というINPUTを与えられ、OUTPUTを作る練習をします。
模範解答を見れば、望ましいOUTPUTの一例を知ることができます。
答案添削では、自分が作ったOUTPUTを評価してもらえます。
もちろん、実際の教材には解説がありますし、予備校では解き方も教えています。PROCESSが扱われていないわけではありません。
それでも、「自分自身がINPUTからOUTPUTを作る途中で、実際に何をしていたのか」は、少しブラックボックスになりやすいのではないかと思いました。
「答案が悪かった」だけでは、次に何を直せばいいのか分からない
例えば、ある設問で思うような点数が取れなかったとします。
完成答案を見れば、必要な要素が抜けていたことは分かるかもしれません。
でも、その要素を書けなかった原因はいくつも考えられます。
そもそも設問を読み違えていたのかもしれない。
設問は理解していたけれど、与件文から必要な情報を見つけられなかったのかもしれない。
情報は見つけていたのに、一次知識とうまく結びつけられなかった可能性もあります。
あるいは、そこまではできていたのに、最後の文章化で崩れただけかもしれません。
OUTPUTとして現れるのは、どれも「点数の低い答案」ですが、改善すべきことはまったく違います。
設問を読み違えた人が答案作成ばかり練習しても、同じことを繰り返すかもしれません。
逆に、考える材料はそろっているのに文章化が苦手な人なら、最後の工程を集中的に練習した方がよさそうです。
製造業で考えると、完成品に不良が見つかったときに、原因となった工程を特定せず、「次はもっと良い製品を作ろう」と言っている状態に少し似ています。
OUTPUTを変えたいなら、そのOUTPUTを生み出したPROCESSを見る。
品質管理では当たり前だったこの考え方を、学習にも持ち込めるのではないかと考えるようになりました。
では、実際の解答PROCESSを「工程」として捉えると、どうなるのか。中小企業診断士の二次試験で考えてみました。
学習の品質も、工程でつくれるか
二次試験の解答PROCESSを、大きく4つの工程に分けました。ただ、単に80分の解答プロセスを4分割したわけではありません。
製造工程として考えるなら、それぞれの工程にもINPUTとOUTPUTがあるはずです。

工程 | INPUT | PROCESS | OUTPUT |
|---|---|---|---|
Step1 設問解釈 | 設問文 | 題意・制約・必要知識を解釈する | 設問解釈結果 |
Step2 与件分析 | 与件文+設問解釈結果 | 必要な情報を探し、整理する | 与件分析結果 |
Step3 骨子構築 | 設問解釈結果+与件分析結果+一次知識 | 根拠と知識を結びつけ、因果を組み立てる | 解答骨子 |
Step4 答案作成 | 解答骨子 | 制限字数に合わせて文章化する | 完成答案 |
こうすると、答案ができるまでの流れが少し違って見えてきます。
Step1のOUTPUTは、次の工程のINPUTになる。Step2で作られたOUTPUTはStep3へ渡され、最後にStep4のOUTPUTとして完成答案が出来上がります。
つまり、最終答案の品質は、最後の答案作成だけで決まっているわけではありません。
Step1で設問の捉え方がずれれば、そのずれを抱えたまま次の工程へ進みます。Step2で必要な根拠を拾えなければ、Step3でどれだけきれいな因果を組み立てようとしても、材料が足りません。
逆に考えると、それぞれの工程について「何を受け取り、何を処理し、何を次工程へ渡すのか」を決め、その工程の品質を一つずつ高めていけば、最終答案の品質も高いレベルで安定させられるのではないか。そう考えました。
もちろん、人間なので、毎回まったく同じように考える必要はありません。
ただ、試験という限られた目的の中では、まず標準となる工程を持つことには意味があると思います。そして実際に問題を解きながら、自分に合わないところは自分なりに変えていけばいい。
重要なのは、唯一の正しい解き方に自分を押し込むことではなく、自分が安定してOUTPUTを生み出せる工程を持つことだと思っています。
AIで面白いのは、「答え」より「途中」かもしれない
生成AIというと、「問題を解かせる」「答案を書かせる」といったOUTPUTを作る使い方がまず思い浮かびます。
ただ、今回考えていて、私が面白いと感じたのは別のところでした。
これまで観測するのにコストがかかっていたPROCESSを、扱いやすくなったことです。
例えば、設問をどう解釈したのかを言葉にする。
なぜその根拠を選んだのかを説明する。
どんな骨子を作ろうとしたのかを残す。
学習者が自分のPROCESSを外に出せば、AIはそれに対してフィードバックできます。
そして、設問解釈だけをもう一度やってみる。次は与件分析だけを練習してみる。
従来でも、人間の先生が横について一つずつ確認すればできたと思いますが、ただ、それを一人ひとりに、何度も繰り返すには相応のコストがかかります。
生成AIによって、そのコストが大きく下がりました。
AIが答えを作れるようになったこと以上に、これまで教材では扱いにくかった「途中」を、観測し、練習し、フィードバックできるようになったことには、学習方法を変える可能性があるのではないかと思っています。
「工程を見る」は、学習だけの話なのか
ここまで考えてきて、これは中小企業診断士の試験だけの話でもないように思えてきました。
営業で目標を達成できなかったとき/企画が通らなかったとき/プレゼンがうまくいかなかったとき。
私たちはOUTPUTを評価したり、もっと知識が必要だと考えてINPUTを増やそうとします。
でも、その間にあるPROCESSはどうだったのか。
どこで判断を間違えたのか。どこまではうまくいっていたのか。うまくいったときには、何を再現すればいいのか。
そして、そのPROCESSをさらに工程へ分けたとき、それぞれに必要なINPUTと、次の工程へ渡すべきOUTPUTを定義できないか。
そこまで見ていけば、結果だけを評価するよりも、改善できることが増えるのではないかと思います。
BIZarmでは、「品質管理の考え方を経営に応用し、実行を設計する」ということを考えています。
今回、中小企業診断士の学習方法を考えたことで、その根底にある考え方も少し見えてきました。
結果を変えたいなら、その結果を生み出した工程を見る。
工程を可視化し、分解する。それぞれのINPUTとOUTPUTを決め、標準を作る。そして実際にやってみて、自分や組織に合う形へ改善していく。
製造業では当たり前だったこの考え方を、学習や仕事、経営へ持ち込んだら何ができるのか。BIZarmで、もう少し試してみたいと思っています。
この考え方を、形にする
この考え方をもとに作ったのが、「中小企業診断士2次試験 工程ドリル Powered by BIZarm」です。
二次試験を設問解釈、与件分析、骨子構築、答案作成の4工程に分解し、苦手な工程だけを、実際の試験に近いINPUTとOUTPUTで反復練習できるようにしました。
完成答案だけではなく、その品質を生み出す工程を鍛える。今回考えてきたことを、教材という形にしたものです。
興味があれば、ぜひのぞいてみてください。
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